2019年5月4日土曜日

45 ニュージーランド銃規制

 3月15日、ニュージーランドのクライストチャーチで、イスラム教徒に対するテロが発生した。
 一人の男が2つのモスクを襲い、散弾銃と半自動銃を乱射、50人もの人がなくなり、数十人が負傷したのだ。

 ニュージーランドは英連邦に所属し白人が多く住む国であるが、元来はポリネシアの一派であるマオリ族の国である。
 18世紀以降英国系入植者と先住民の間での争いの時代を経て、現在では、少数派に寛容な社会として評価されている。昨年は、女性首相が産休を取り出産、復帰後は夫(注)が育児ということで話題にもなり、平和で進歩的な国という印象であった。
 その国でのテロが起きた。

 新聞によれば、ニュージーランドでは、最近急速にイスラム系移民が増え、それに反発して「白人社会の再生」を掲げる極右団体が生まれてきていたという。
 日本が見習うべき国の一つと思っていたニュージーランドで起きたテロに、私は暗澹とする思いだった。

 ところが、ニュージーランド政府と国民は、その翌日からの行動で、私の不安を吹き飛ばしてくれた。


★ニュージーランド国民の反応に敬意


 狩猟が盛んであり、また農業国でもあるこの国では、多くの農場で害獣駆除のために半自動銃が使われてきた。
 銃の保有には免許が必要だが、16歳以上で講習を受ければ比較的容易に免許を取得できるという。購入した銃の登録制度はないので、複数の銃を持つ国民も多かったと考えられている。
 これまで、銃による犯罪はまれだったという。(2006~2015の10年間を見ると、10件以上だったのは2年のみ。)そのため、これまで銃規制はなかなか進まなかった。

 しかし、今回の大量虐殺を知った国民の間では、ただちに銃規制強化を求める声が高まった。
 事件翌日以降、警察には、「自分の半自動銃を廃棄してほしい」という依頼が殺到しているという。また、銃を所有する多くの人々が、「持っている武器を当局に引き渡そう」とネットで呼びかけている。

〇(半自動銃は)農場では便利なツールだ。しかし、自分にとっての便利さよりも、誤った使い方をされるリスクの方が重要だ。
〇私たちの国ではこんなものは必要ない。こんなことは絶対に起きてはならない。
〇こうしたものが誤った人の手に渡れば凶器になりうることが分かった以上。それと引き換えに味わう不便さなどささいなことだ。
〇31年間にわたって銃を所有してきたが、金曜午後に事件のことを知ってから、これからはちゃんと考えなければと思った。月曜に出した答えが返納だ。これまでで最も簡単な決断の一つだった。


★ニュージーランド政府、議会の素早く毅然とした対応に敬意


 一方、政府と議会の動きも果断だった。
 アーダーン首相は、乱射事件の翌日、「恐ろしいテロ行為」「こんなふるまいと考え方を拒絶しなければならない」と犯行を強く非難し、10日以内に銃規制の改革を発表すると宣言した。
 (写真は、16日に記者会見するアーダーン首相)



 6日後の3月21日、首相はその言葉通り、軍仕様の半自動銃や、銃器を半自動銃に改造するための部品などを禁じる銃規制強化の方針を打ち出し、新たな銃規制法を4月11日までに施行し、禁止対象の銃器を買い取る仕組みを整備すると発表した。

 そして4月初旬に法案を議会に提出。それを受けて議会は、4月10日、半自動小銃などの所持を禁止する改正銃規制法案を賛成多数で可決した。
 銃器買取のコストは、最大2億NZドル(日本円で約150億円)になるという。

 なんという国だろう。
 ニュージーランドの国民、政府、そして議会の素早い決断と行動力は本当に尊敬に値する。
 何より、暴力否定の方向が一致しているところが素晴らしい。

 多くの人が、もう一つの、銃規制が必要でありながら、規制しない(あるいはできない)彼の国と比較したことだろう。
 
 
《注》 アーダーン首相の夫は、テレビ・アナウンサー。出産当時は、正確にはパートナー。
    結婚したのは昨日、5月3日。

 
 


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