10月12日午後、東京都区部で約58万戸にのぼる大規模な停電が発生した。原因は、埼玉県新座市にある東京電力の送電設備に火災が発生したこと。通気口から吐きだされる黒煙と、消防隊が消火に当たる様子がTVで長々と放送されたため、家人や遠くに住む親族・知人から心配の電話やメールがいくつもあった。
ところが、新座の私たちの研究室のあるこのマンションには何の影響もなく、火事のこともそれらの電話で知ったくらいである。火事の現場は新座市の中心部で、研究室より東北方向に5キロぐらい離れたところ。免許更新に行く新座警察署の近くと判明したので、マンション(7階建て6階部分)の廊下に出てそちらの方向を見てみると、太く真っ黒な煙がどんどんのぼってくる様子が観察できた。
火事はその日の深夜まで続いたようだが、送電はいろいろなルートからできるようになっており、川口市の変電所などから供給するよう切り替えたため、停電そのものは概ね20分~1時間で復旧した。
しかし、この停電による大都市東京の交通網は相当に乱れた。西武線の完全復旧はその日の午後9時ごろ、9万人の足に影響が出た。また新宿区、豊島区、練馬区、港区では約200箇所の信号機が停止、出会いがしらの事故も発生したという。
東京都に勝るとも劣らない大都会ニューヨークでは、大規模停電が度々起きている。1965年13時間、1977年27時間、そして2003年は43時間。原因は、発電所への落雷、送電線業務の分社化によるメンテナンスの不備などである。
1977年の27時間の大停電を経験したある日本人は、今回の東京大停電について「10分で復旧したことが驚き」と語り、日本の送電システムの素晴らしさについて評価していたが、わずか1ルートの送電線が使えなくなったことで、このような混乱が起きることについては、災害大国日本に住むものには重要な問題として認識されなければならないと、私は思う。
それは、日本が世界に侃たる災害列島だということからである。特に心配なのは大地震である。大地震が起これば、必ずといってよいほど停電が発生する。1週間、時には数週間続く例もある。交通や、照明ばかりでなく、現代の日本人の生活は、余りにも電気に依存している。電気・ガス・水道などと言うが、実はガスも水道も使うには電気がいるのだ。給水にモータが欠かせないマンションでは、水が出なくなる。飲み水にもトイレにも困ることになる。もちろん、煮炊きもできなくなる。
また、都市部では自分たちが放出する熱(自動車、冷暖房、炊事等々)でヒートアイランド現象を作り出している。酷暑の続く夏場に停電などが起これば、温度調節ができずに、何人が熱中症でなくなることだろうか。
大地震が起これば、あちらこちらで災害が発生し、交通網も遮断されるので、そう簡単に救助や災害の復旧は行われないと見なければならない。電話も使えなくなるし、携帯の電源もじきに切れ、外部への連絡もままならなくなる。考えるだに恐ろしいことだ。
大地震はいつ来るのかわからない。首都圏では、30年以内に大地震が発生する確率は70%と言われている。いつ来てもおかしくないとさえ言われている。しかし、そのことに対して果たして対応できているのか。
今回の新座発大停電は、そういった意味で、貴重な警鐘であった。
わが町わが県の行政がいかに災害に強い生活システムを構築していくかを見張ると共に、自分自身の生活における電気の依存度を下げる工夫をしたいと思う。