みずほ銀行でシステム障害が繰り返し発生している。
今年2~3月における4回のトラブルがまだ記憶に残っている中で、8月末に再び全店舗規模のトラブルが発生した。原因調査に当っている外部調査委員会は6月に、企業体質に問題があるという報告を出した。①危機に対する組織力②ITシステムを統制する力③顧客目標、の3つが弱いということが指摘されたそうだ。そして、その企業体質を生み出す原因となっているのは、旧銀行(富士、第一勧銀、日本興業)の縄張り意識であるというのが、大方の見るところであったようだ。
このニュースを新聞で読んで思い出したことがある。
2004年、3銀行が合併した1999年の5年後の話である。私の叔母が亡くなり、その財産整理のためにみずほ銀行のある支店を訪れた。叔母は独身で、唯一の親族であった兄(私の父)の子どもである私たち姉弟が遺産を相続することになり、一番近くに住んでいた私がその手続きをすることになったのである。訪れたのは、叔母が日常的に使っていた東京郊外、西武池袋線沿線の支店。
1.元富士銀行のみずほ支店で
案内された窓口でその旨を伝え、通帳を見せ、相続のためにはどのような書類が必要になるのかを教えてもらいたいと言うと、担当者は「この口座の取扱店は三田の支店なので、ここでは受け付けられない」と言う。「どの支店でも基本的には同じだろうから、それを教えてもらいたい」と私が言うと、彼女から驚くべき答えが返ってきた。
「こちらの支店は元富士銀行ですが、お客様の口座を担当している三田支店は元第一勧銀ですので、どういう書類が必要なのかはわからないんです。」
みずほ銀行三田支店は、叔母が高輪に住んでいるときに口座を作った支店である。叔母は亡くなる3年程前に足を怪我し、高齢の叔母の一人暮らしが心配で私が近くに呼び寄せたのだが、近所に同じみずほ銀行があったので、取扱店を変更することなく使っていたのである。
同じみずほ銀行なんでしょ。三田まで行って、何が足りない、かにが足りないと言われても困る。必要な書類を取り寄せてほしい。手数料が必要なら払いますから、とあれこれ言って見たが、「わからない」「できない」の一点張り。仕方がないので、日を改めて三田支店に行くことにした。
ごく基本的な手続きであるのに、元勧銀の仕事だとか、元富士の仕事だとかと言って踏み込もうとしない。客の便宜を図るという所に仕事の目標をおいていないのである。その一方で、通帳を見せた際に口座の取引停止だけはさっさとやってのけたために、マンションの管理費・積立金や公共料金などの引き落としができなくなってしまい、いくつもの相手先に連絡を入れ、いちいち振り込まなければならなくてしまった。
2.元第一勧銀のみずほ銀行支店で
さて三田支店はどう対応するのか? 入口で来意を告げると、同じように奥の窓口に案内された。そこで、相続のための手続きの内容を知りたいという目的を告げ、最初の支店では教えてくれなかったことを伝えた上で、当方が出す必要のある書類は何々か、そちらの提出形式が決まっているのなら、その用紙をもらいたいと話した。すると、またまた、答えはNOだった。
え、なんで? どういう手続きが必要なのか、どういう書類が必要なのかを聞いているだけでしょ。申込書などを出す必要があるなら、記入用紙をいただきたいと言っているだけですよ。
だいぶ前のことなので、具体的には覚えていないのであるが、私と叔母との関係を示す書類か何かが足りないというようなことであったかと思う。予め、役所で取得しておくようなものであったような記憶がある。私は腹が立った。
その書類一つがないために、また出直して来いって言うんですか? だから、最初の店で何々が必要なのかって聞いたんですよ。こんな原則的なことなら、どこの支店だって同じじゃないの。元富士だとか、元第一勧銀だとかという話じゃないでしょ。どうして同じ銀行の中で、それが共有できないんですか。
預金者が死亡したときの手続きの案内書ぐらい作っておきなさいよ。こっちは仕事休んできているのよ。また半日つぶせって言うの? バカにしないでちょうだい。もうこちらの銀行とは取引したくないわ。預金は全部引き上げますから!
女性行員は私の権幕に驚いて、上司の男性を連れてきた。私は怒りを抑えて、元富士のみずほ銀行とのやり取りのところから、もう一度ぜ~んぶ話した。すると彼は、手続きの申込書と、手続きに必要な書類のリストをくれて、必要書類をそろえて郵送してくれればよいと説明してくれた。
なんだ、郵送でいいなら、最初の元富士のみずほ銀行でもできたじゃないの。
その後、他行はどうしているかと、我が家で使っているもう一つの大手銀行を調べてみたら、ちゃんとそうした場合の案内を作っていた。そこには、預金者が死亡の場合の手続きの際は、公共料金の支払いや家賃の振り込みがある場合、早めに引き落し口座や入金口座の変更をしておくようにとの注意書きがあった。これが普通だ。
みずほ銀行には、一つの組織としての「合理的視点にもとづいた行動姿勢」が感じられない。顧客に対する姿勢より、自分たち仲間内の感情が優先している。これを修正しなければ、みずほ銀行にはいつか問題が発生するだろう、そう感じた出来事だった。
それから17年後、やはり問題は起きた。それも相当大きな問題となって。みずほ銀行を構成している人々の行動姿勢はどうやら変わっていなかったらしい。それが、銀行の屋台骨を支えるシステムの障害を作った原因だととらえられている。すぐれたITシステムの構築は、合理的視点にもとづいた分析が不可欠。総力をあげて根本から出直さないかぎり、建て直せないのではないか。