2017年5月14日日曜日

16.憲法違反ではないかと思うこと

首相主導の憲法改正への違和感


 安倍首相は「憲法改正の機運は熟した」として、改正憲法の2020年施行を目指す方針を示した。しかし、首相が声高に改憲を叫ぶのは、憲法に照らしてどうなのか。

 憲法第99条
  天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官、その他の公務員は、
  この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

 99条は、権力を持つものによって、国民の権利が侵されないようにするための歯止めの条項である。国務大臣は、憲法を尊重し擁護しなければならないとしている。その国務大臣の一人であり、長である首相は、当然この憲法を尊重し擁護する義務を負っている。


 「憲法改正の機運」は熟したのか?


 首相は何をもって「憲法改正の機運は熟した」と言っているのだろう。
 憲法施行70周年を迎えた今年、報道各社は、憲法改正についての世論調査を行った。それによると、確かに憲法改正が必要という回答が、必要なしを上回っている状況だ。
 (下記にあげた結果では、必要なしを上回っているのは朝日新聞のみである。)


 国民の意見はいよいよ改正派が上まわった、本当に機は熟したのかと思いきや、改正が必要だという意見はむしろ減少傾向にある。NHKの調査では、改憲必要だという意見のピークは15年前(58%)で、今回はそれより15ポイント落ちている。
 (20代では、改正必要なしの方が多くなっており、若い層でこの傾向が強いということが伺える。)


 朝日新聞の調査においてもこの傾向は同じで、13年前(2004年)の調査では改正必要53%であったのが、今回の調査では12ポイント落ちて41%となっている。
 改正必要という意見が減少したということについて、それをどう読み解くのかは難しいが、朝日新聞の調査には興味深いデータが示されている。安倍政権下における改正に賛成かどうかについての質問で、その結果は下記のようになっている。

   2017年  賛成38% 反対50% (現安倍内閣)
   2007年  賛成40% 反対42% (第一次安倍内閣)



国民は早急な憲法改正を望んでいない


 朝日新聞では、憲法改正に向かう国民の姿勢も聞いている。

  憲法改正は優先的に取り組む課題か  はい 33%  いいえ 62%
  現行憲法は日本にとって良かったか   はい 89%  いいえ  3%
  憲法改正の議論は深まっているか    はい 16%  いいえ 82%

 憲法は日本国の最高の法規とされているものであり、それは国民の基本的人権を守るための法規なのである。したがって、その改正を論議すべきは権力を持つものではなく、国民でなければならない。国民自身が優先的課題と考えてもいないし、議論が深まってもいないと感じているのであるから、どう間違っても、改正の機運が高まったなどとは言えない。
 改正するのかしないのか、改正するならどう改正するのかは、国民自身がもっともっと議論し、考えていかなければならないことなのである。


憲法改正を論議すべきは、首相ではなく国民


 次に紹介するのは、今から60年前の憲法調査会の公聴会にて、憲法の改正に対する内閣の姿勢について戒能通孝(かいのうみちたか)氏が述べたものである。多くの法律の専門家たちは、「法律の読み解くうえでの最も重要なことは、その法律が実現しようとしている理念をくみ取ることである」と言っているが、戒能氏は、まさしく日本国憲法の目指しているところに立って、その読み解き方を私たちに教えてくれている。


第24回国会 衆議院内閣委員会 憲法調査会法案公聴会(1956年3月16日)
 公聴人 戒能通孝氏(東京都立大学教授)の発言

 憲法の改正は、ご承知の通り内閣の提案すべき事項ではございません。
 内閣は憲法の忠実な執行者であり、また憲法のもとにおいて法規をまじめに実行するところの行政機関であります。したがって、内閣が各種の法律を審査いたしまして、憲法に違反するかどうかを調査することは十分できます。

 しかし憲法を批判し、憲法を検討して、そして憲法を変えるような提案をすることは、内閣には何らの権限がないのであります。この点は、内閣法の第5条におきましても、明確に認めているところでございます。(中略) 内閣法のこの条文は、事の自然の結果でありまして、内閣には憲法の批判権がないということを意味しているものだと思います。(中略) 内閣には憲法改正案の提出権がないということは、内閣が憲法を忠実に実行すべき機関である、憲法を否定したり、あるいはまた批判したりすべき機関ではないという趣旨をあらわしているのだと思うのであります。

 憲法の改正を論議するのは、本来国民であります。内閣が国民を指導して憲法改正を企画するということは、むしろ憲法が禁じているところであるというふうに私は感じております。(中略)
 元来内閣に憲法の批判権がないということは、憲法そのものの立場から申しまして当然でございます。内閣は、決して国権の最高機関ではございません。したがって国権の最高機関でないものが、自分のよって立っておるところの憲法を批判したり否定したりするということは、矛盾でございます。こうした憲法擁護の義務を負っているものが憲法を非難する、あるいは批判するということは、論理からしてもむしろ矛盾であると言っていいと思います。















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