2020年9月25日金曜日

67 リーダーについていけますか?

リーダーシップの育成は常に社会的問題だ。
政治の世界では、まさにこれが最大の課題で、リーダーたちがその資質を問われている。
しかし、リーダーを批判している者たちが、次のリーダーになる力量の持ち主かといえば、そうとも思えない。
つい先ごろまでトップリーダーの座にあった人に対して、大方の国民から「他よりまし」というような程度でしか支持されてこなかった。
なぜ、この人になら任せられる、この人にならついて行けると、思えなかったのだろうか。

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ついて行く側の視点で、リーダーのあるべき姿、行動を分析してみよう。
取り上げるのは、優れたリーダーシップが発揮され、危機を乗り越えた事例。
2010年8月に起きた南米チリのサンホセ鉱山の落盤事故で、地下700mの地中に閉じ込められた33人が、69日後に無事生還した出来事。
リーダーシップを発揮したのは、現場監督のルイス・ウルアス氏54歳。
サンホセ鉱山には、2か月前から従事していた。


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事故が起きてから、彼が最初にしたのは、安全地帯に鉱夫たちを移動させたことと、3つの調査班をつくり、抜け出す道がないかを探索させたこと。
そして脱出できないとわかったとき、鉱山の構造と落盤の状況から救出の手が届くまでを20日と推測し、皆に、全員がチームとなって地上に連絡する手立てを工夫するという方向を示した。

ついで、皆で決断した方向を進めるための環境づくり、組織作り、規律作り。
食事をする場所、寝る場所、トイレの場所を決め、33人が生き延びるために食料と飲み物の配分を決定した。また33人を11人ずつ3チームに分け、8時間交代で仕事をするようにし、生活場所の衛生管理や、落盤や落石の恐れがある所のパトロールを行った。
チームにはそれぞれリーダーを置き、食糧管理係、通信係、警備係、医療係などを、それぞれの能力を活かして役割分担させた。そして、重要事項の決定には、一人1票の民主主義制を採用した。


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ついて行くものが第一に求めるのは、行動すべき方向、そしてその手立てと見通しだろう。
それが最善のものだと思え、それならできそうだと思える。
脳は「困難なことだが、これならできそうだ」と思えるとき、最も意欲的になり、活性化し、行動を生み出すのである。
ウルアス氏の示したものは、鉱山労働経験30年、地質学にも詳しく、誰よりも鉱山を熟知しているその能力から生み出されたもので、誰もが納得いくものだった。地上との連絡が取れるまでの期間の予測も的中し、そのことも信頼を高める要素となったことだろう。

つぎは、適切な仕事の分担と人選。進むべき方向に対して、互いに納得がいくとともに、自分自身の存在が実際に貢献できていると自覚できる。
それは、脳にとって「快」の状態をもたらし、意欲を生み出すことになる。

そして最後は公明性と公平性。民主的な方法をとり入れ、皆が納得できる決定プロセスのもとでルールを作り、リーダー自身もそれに従う。
これは仲間としての一体感・共感を生み出すとともに、リーダーの無私で真摯な姿勢を伝えることになる。


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リーダーシップは、それが発揮される場・状況によって、その内容は同じではない。
しかし、要素は共通している。
8年近く、日本のトップリーダーの座にあった人の場合は、「進むべき道として示した方向」「人選(人事)」「公明性と公平性」、そのすべてにおいて問題があった。
そのため、国民の心は離れていった。

このたび新しくリーダーとなった人は、果してリーダーたるべき行動をとることが出来るだろうか。
3つの視点から、しっかり見極めていきたいものである。













 

2020年9月16日水曜日

66 海水温30℃の意味

2年で3℃上昇 
 
今年、日本近海の海水温は、2年前の27℃から3℃上がって30℃に達したという。 
あの広い海の水温が2年で3℃も上がるということには、いったいどういう意味があるのか。

 地球レベルの気候の変化はそう急激に訪れるものではない。 
1880年から2012年の132年の世界の平均気温の上昇分は0.85℃。 
しかし、同じ132年の間の日本の平均気温の上昇分は1.14℃。
さらに東京では3.2℃も上昇している。 
人間が多く住むところ、そして人口の密集する都市部である。 

 気温を押さえて来たのは、草原や森林、南極や北極、そして陸の2倍以上の面積をもつ海。
その中で、特に貢献度の高いのが海だという。


海の働き

気温上昇の原因は、CO2の増加による地球温暖化であると考えられている。
CO2は人間の産業・経済活動の発達とともに増え続け、地球温暖化は確実に進んでいると研究者たちは指摘している。
しかしこれまで、そのCO2の増加の度合いから予測された程には、大気の温度である気温は上がってこなかったという。
その理由は海。海水がその温度を吸収してきたためであるという。
代わりに、海水温がじわじわと上昇してきたのだというのである。

昔、夏の夕方の海岸は涼しかった。
太陽で熱せられた空気が、海水温で冷やされて温度が下がるからである。
まさに水冷式、天然のラジエターである。

しかし30℃になってしまった海では、30℃以下には冷やせない。
海が熱を吸収しくれなくなったとき、大気の温度は急速に上がっていくだろう。
もしかすると、もうそういう段階にまで来たのかもしれない。
次々に更新される各地の最高気温、その報道を見ているとそんな心配が湧き上がってくる。


エアコンで暑さ対策しているだけでよいのか

この暑さに対し世の中は、熱中症をどう予防するかしか問題にしていないように見える。
TVニュース、ワイドショー、それに新聞ではエアコンの使用を勧める。
寝るときには寒いぐらいに温度を下げ、冬の布団をかけろとまで言うアドバイザーまで登場する。

しかしエアコンをつければ、熱い空気が室外機から排出されるのだ。
暑い大気を、もっと暑くしてしまうことになる。
(我が家のエアコンを30℃設定で稼働させた時、排気された空気は38~39℃だった。)

私たちは、ただ、この暑さをどうしのぐのかということだけ考えていてよいのか。
この暑さを押さえるためににはどうするかを考え、行動しなければならないのではないか。

ここ2.3日涼しかったが、明日からまた暑さがぶり返すと夕方のTVニュースが報じていた。












65 7枚のマスク

「あなたはどう受けとめましたか?」
テニスの2020全米オープン大会の優勝インタビューの際に、大坂なおみ選手が質問者に対して返した言葉である。

大坂選手は大会中、理不尽に殺害された黒人被害者の名前を書いた黒いマスクをつけて、会場に入場した。

1枚のマスクに一人ずつの名前が白い文字で書かれた黒いマスク。 1試合ごとに異なる名前が書かれ、決勝までの7試合で7枚のマスクがつけられた。

質問者は、マスクをつけたのはどういうメッセージだったのか、と大坂選手にたずねたのである。


それに対して大坂選手は、逆に質問者に対して「あなたはどう受けとめましたか?」と問い返した。

大坂選手がその7枚のマスクをつけたことを、質問者自身がどう感じ、何を考えたのかと問うたのである。そして、つぎのようにつけ加えた。

「そのことについて話し合ってもらいたかった。考えてほしいと思った。」


決勝までの7試合の間に、マスクについて大坂選手が語ったことは、「7枚用意した」「決勝まで勝ち進んで全部見せたい」「7枚では足りない事が悲しい」ということだけだった。

彼女はマスクに被害者の名前を記すことで、それを見た人たちが、「この名前の人は誰?」「彼らに何が起こったの?」と思い、「どういう事実があったのか」を自分で調べ、「そのことについて考え」「周りの人と話し合う」という行動をしてほしいと思ったのだ。

彼らに起こった出来事は「あって良いことなのか」「なぜ続くのか」・・・

どうしたら、皆が理解しあい、助け合って生きて行く世の中にして行くことが出来るのか・・・


メッセージは、それを見聞きしたものがどう受けとめ、何を考え、どう行動するかが大事なのだ、と彼女は言っている。自分のメッセージは意味あるものであったかを彼女は知りたかった。

日本の中にも差別はある。さすがにアメリカのような殺害事件はないが、外国人労働者や技能実習生、朝鮮系の学校に対する行政不当な待遇や、周囲の人の心ない言動を数々耳にしている。最近では、コロナ陽性者や医療・介護従事者に対する差別的な言動が数多く発生していることが報道されている。

大坂選手の言葉、しっかりと受けとめかみしめたい。